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クロアチア・スロベニア絵になる風景と、ギリシャの絶景聖地へ4 ~聖地メテオラ~

今回は前半を一人旅、後半は母と妹が合流して三人旅という形をとった。まずは一人旅部分。クロアチアまでの乗り継ぎではパリに立ち寄りその後ザグレブへ。スロベニアの絵葉書のような湖や、驚くべきギリシャ正教の絶景聖地へと足を伸ばす。

【旅行時期:3月末~4月初旬】

 

■メテオラ観光の拠点、カランバカへ

アテネの朝。

ホテルロイヤルオリンピックの朝食レストランは、昨夜パルテノン神殿の夜景を見たのと同じルーフトップにある。

朝陽を受けるパルテノン神殿の眺めもまたさすがの貫禄だ。

ガラス張りのレストランは朝陽が差し込みとても心地が良く、朝食のバリエーションも豊富であった。

朝食にぴったりなギリシャヨーグルトは欠かせない。

しかし、あまりゆっくりもしていられない。

今日はアテネの中央駅、ラリッサ駅から朝イチ8:27分発の列車でカランバカという街まで行くのだ。所要時間は約5時間、直行である。直行列車はアテネから一日2便程度しか出ていないので要チェックだ。

本数の少ない長距離列車に関しては事前にオンラインでチケットをとっておくことにしている。現地でチケットを取りに行く時間がもったいないのと、何があるか分からないからだ。

カランバカは、ギリシャ正教の一大聖地メテオラへの観光拠点となる街である。

007シリーズ「ユア・アイズ・オンリー」でギリシャマフィアの隠れ家として描かれていたメテオラは、高さ400mにもなる奇岩が林立し、なるほどマフィアが隠れ棲んでいてもおかしくないくらい神秘的で近付きにくい姿をしている。

アテネからの行き方としては、二通りある。

ひとつは、弾丸日帰りバージョン。朝イチで出発し13時過ぎに到着、そのままタクシーをチャーターして各修道院を効率的に回り、夕方17時台の列車で22時過ぎにアテネへ戻るというもの。

言わずもがな、これはちょっとキツイ。綺麗な写真が何枚か撮れれば良い、とりあえず雰囲気が分かれば良い、というならば十分だが。加えてアテネ着が22時頃になるので治安が心配だという場合は避けた方が良いかもしれない。

せっかくならば、この恐るべき姿をした類まれな修道院群の姿を、じっくりと目に焼き付けて来たい。そうなると、もう一つは一泊二日バージョンである。

アテネを朝イチに出て13時過ぎに到着、その日は宿泊なので帰りの時間を気にすることなく修道院群を見学、そして一泊して早朝の列車でアテネへ戻る。または修道院見学を翌日午前中にして、そのまま夕方の列車で22時過ぎにアテネ着。私は一人旅ということもあり夜暗くなってからの移動よりは早朝移動の方が好みなので、一泊二日バージョンのカランバカ早朝発にすることにした。

ラリッサ駅は通勤に向かうアテネ市民たちで賑わっていた。ガヤガヤした朝の駅の雰囲気は嫌いじゃない。

首都の駅というには年季が入りすぎているようにも思えたが、とにかくカランバカ行の列車は時間通りに来た。

落書きだらけの列車だったが、中は意外と普通だった。

列車に乗る前に自販機で買っておいたカプチーノと、文庫本を片手に列車に揺られる。

列車はすぐにアテネ郊外へ出て、爽やかな気候の中小さな田舎の駅に停車しながら速度を上げて走って行く。

BGMは今回も色々入れてきたが、なんとなくギリシャで聞きたかったこの曲。Janis Joplin - Piece of my heart。最近Miss Dior のCMで流れていたこの曲だ。舞台の設定は南フランスのコートダジュールだが、オリーブの茂る草地と青い地中海がギリシャの雰囲気にも似ていたからだった。

Miss Dior - The new film (Official Director's Cut) - YouTube トリカラの駅を出て1時間弱だっただろうか。列車はゆっくりと終点カランバカの駅に停車した。

長距離走った古い列車は、まるで精根尽き果てたかのように息も絶え絶えに停車すると、それっきりびくともしなくなった。

降り立つと、太陽の香りと野花の匂いがした。

メテオラでのゲストハウス、モナスティリゲストハウスは駅から徒歩すぐ。翌日の出発が早朝になるので、駅に近ければ近いほど良かった。

小さな駅舎とは線路を挟んで反対方向にある。

よく見るとおばさんが線路をまたいで向こう側に渡っていたので、それにならって草の生えた線路をまたぎ、ポカポカ陽気の中野花の咲く道を歩いて行く。

こじんまりしているが、キレイに掃除が行き届きとても印象の良いゲストハウスだった。

スーツケースを引いていくと玄関からオーナーの妹さんが笑顔で出てきた。

ピカピカに掃除されたリビングにはバーカウンターがあり、自由にコーヒーや紅茶を飲めるようになっている。

温かみのある木造と石造のミックスされた建物で、内装は女性オーナーの趣味が現れていて調度品も女子好みだ。

モナスティーリ ゲウストハウス (ギリシャ カランバカ) - Booking.com チェックインを済ませると、手書きのマップと修道院群の開閉時間が書かれたリストをもらった。

メテオラでは、この修道院開閉時間がかなり重要となる。 各修道院の休みは曜日がバラバラだし時期によっては閉まる時間が早かったりして、うっかりしていると行っても中に入れないということになりかねない。 絶景ビューポイントも修道院の展望台にあったりもするので、入れなければやはり魅力が半減してしまう。

ガイドブックに載っているものと変わっていることが多いので、こればかりは現地でホテルかインフォメーションに再確認することが大切だ。 午前中修道院を周る場合は良いが、午後から修道院を周る場合はより注意が必要である。

今回の場合はカランバカ駅に着いたのが13時半ごろ、色々準備をして出たのが14時半前、修道院が早いところで16時閉院だったので周り方に工夫が必要だった。

メテオラ観光のスタンダードは、タクシーチャーターである。 ホテルかインフォメーション付近のタクシー乗り場でタクシーを手配し、1時間10€で周ってもらう。タクシーは心得ているので主要な修道院とビュースポット、写真スポットを効率よく巡ってホテルまで送り届けてくれる。全所要時間3時間程度だろうか。最も楽で無駄の無い方法である。

が、少し味気なくもある。 5時間かけてアテネからやって来たのだから、もっと自分流に修道院群を楽しみたい、時間に余裕がある、好き放題に写真を撮りたい、というのであれば次におススメするのは往路タクシー、復路徒歩である。

結局私は二番目の方法をとった。

かつて道路も階段も無かった時代、修道院への道のりは非常に険しいものだった。今は道も整備されているが、せめて徒歩で周るということに拘ってみたかったからだ。

■絶景巡り

まずは、カランバカの中心広場のタクシー乗り場でタクシーを見つけ、メテオラ最大のメガロメテオロン修道院入口まで送ってもらう。あとは、ここから全て徒歩で修道院を巡りつつカランバカまで下って行くというコースだ。 ただ、前述したように時間があまりない。なので、実際に修道院内部に入るのはメガロメテオロン、ヴァルラムのみに絞ることとした。

車窓からは、聳える奇岩の非現実的な風景が見えてくる。 さて、タクシーでカランバカの街から20分程度でメガロメテオロン修道院のパーキングだ。車はここまで。この先は急な崖を一旦下り、270段の階段を再び上がる。

巨大な岩山がまるごと修道院になったかのような姿は、なかなか圧倒的だ。

入口で入場料と無料の巻スカートを貰って中へはいる。ここは最大だけあって修道院内部も一つの巨大な施設のようだった。

かつての修道士の骸骨が眠っている部屋や、ワインの貯蔵を行っていた部屋などがある。

撮影禁止なので写真は無いが、聖堂内はギリシャ正教らしく、窓が少なく仄暗い中に黄金の装飾や聖人を描いたイコンがところどころキラリと光り、重厚で厳かな静的空間を作りだしていた。

ギリシャ正教とはキリスト教のひとつである。

かつてローマ帝国が東西に分裂した際、キリスト教自体も二つに分かれる。ギリシャ正教は東ローマ帝国の方で信仰されることとなったキリスト教であって、西ローマ帝国で信仰されていったのはカトリックとなる。 東ローマ帝国で信仰されたギリシャ正教は「グリーク・オーソドックス」と呼ばれ、その名の通りよりオリジンでオーソドックスな原始キリスト教の教義を守っている。 これはロシアに行くとロシア正教、ブルガリアに行けばブルガリア正教・・などと各地で呼び名は変わるが、どれも根本はギリシャ正教である。

今では数は少なくなったものの、メテオラはそのギリシャ正教の聖地らしく厳格な戒律を守る修道士たちが今なお厳しい修道生活を営んでいる。 メガロメテオロンの展望台からは、奇岩のてっぺんに建つヴァルラム修道院の姿がよく見える。まるで岩に寄生しているかのように一体化したその姿は他に類を見ない。世界遺産として然るべき眺めだ。

眼下にはミニチュアのようなカストラキの街が霞み、改めて非現実的だ。

さて、ここからは周れるだけ徒歩で周ることにする。

現地に行くまで分からなかったのだが、トレッキング専用のルートがあるわけではなく結局は車用の道路を徒歩で歩くということになる。風情のある山道を想像していると、少し違った印象を受けるかもしれない。

まずは先ほど見たヴァルラム修道院。こちらは150段の階段を上がって行く。

ハイシーズンでないということと、閉院時間が迫っているということで拝観者がほとんどおらず、修道院本来の静けさを味わえたのは良かった。

ここには、かつてと同じように、荷物を上げ下げするクレーンがある。道路が整備されていなかった当時は、これを使って物資や人が下界と行き来するしかなかった。

ひたすら道路を歩き続ける。ここからの道中は、更にメテオラらしい修道院群の景色のオンパレードである。 そそり立つ奇岩に囲まれ、何のとっかかりも無い岩のてっぺんにポツンと乗った修道院。これはルサヌ修道院の姿である。

林立するダイナミックな巨岩の一部をよく見るとここにも修道院が建っている。アギオス・ニコラウス修道院。

ルサヌとアギオス・ニコラウスを眺める。どうだろう、ニョキニョキと生える巨大岩とごく自然に一体化した修道院の姿。人工物であるのに、不思議とそれを微塵も感じさせない。

アギア・トリアダ修道院。

まるで下界の街とは全く異質なもののように見える。 風や水の浸食作用によってできたという説が有力なこの奇岩群。

9世紀には既に隠者が住みつき、その後は迫害されたキリスト教徒がここへ隠れ住むようになった。そして14世紀以降次々と修道院が建設される。 「メテオラ」とは、「宙に浮いた」とか「空中に吊り下げられた」という意味を持つ。世界には様々な聖地があるが、神への信仰心がここでは明らかに天に近付こうという形で現れている。

アギアトリアダ修道院を見てアギオス・ステファノス修道院に至るまでの間に、舗装道路を逸れてカランバカの街まで下るトレッキングルートがある。徒歩の場合、最後はここを下ることになる。

両脇に丈が低めの木々が茂った山道は、いったいどこまで続いているのか分からない。降りるにしたがって昨日降った雨の影響なのか道はぬかるみ、ところどころ細く水が流れる。

​ここへきて曇りがちの空が怪しくなってくる。時間は18時近くなり、日が暮れることが心配になってくる。 道はどんどん林の中に入って行き、舗装道路の姿は見えなくなった。 どこからともなく犬の吠え声がし、近くに羊の群れがいることに気付く。

​遠くにいた羊飼いに大声で尋ねると、一応カランバカへの道は合っているらしい。

しかし途中で微妙な分かれ道があったりして、正直不安でいっぱいだ。

とうとう雨も降りだした。

出た頃は晴天だったのでうっかり雨具を置いてきてしまった。 小走りで山道を下り続け、足の疲れもピークに達した頃、どこかで車の音がする! 音のする方向へ必死に走っていくと、そこには一軒の民家があった。

そして今まさに車が一台停まるところだった。 汗を流して駆け寄ってきた私を車の中のおじさんは一瞬不思議そうに眺めたが、すぐに「いいよ、隣にのりな!宿はどこかい」とドアを開けてくれた。

雨は本降りになってきた。 親切なおじさんは、お礼に差し出したチップ代わりのユーロを一銭も受け取らず、代わりに私の持っていた日本の飴の詰め合わせをもらって嬉しそうに帰っていった。

今でこそ道路が整備されているが、当時はそれこそ下界とは完全に隔絶された天空の聖地だった。 今回は、シーズン的にも時間的にも他の観光客がほとんどおらずポツンと一人だけこの天空の聖地を迷い歩く形となったが、それはある意味で、良かったのかもしれない。

​■葡萄酒

ゲストハウスに戻ると急に空腹を感じたので、すぐに食事に行くことにした。

オーナーのディタさんに教えてもらったタベルナ・ディオニソス。宿から徒歩5分ほどのところにある。 とにかくお腹が空いていたので何品もオーダーしたが、それは一人じゃ多すぎる、と店主が笑って言うのでポークのスブラキと、ナスのフライだけにした。

なるほど、スブラキは肉厚の巨大な肉が串に刺されてデカデカと皿に乗り、さらに肉厚のポテトフライが付いていた。

​でも、空きっ腹には嬉しく、普段なら食べきれないだろうが一気に全部食べきってしまった。 ナスのフライのほうは少々油がきつくて全部は食べきれなかったが、食後に頼んだドロッとしたグリーク・コーヒーを飲むとやっと落ち着いた。

​​​ゲストハウスに戻ると、ディタさんが迎えてくれた。 「さあ、今日は疲れたでしょう。ここでお茶でもいかが?」 バーカウンターで紅茶を入れるとリビングで落ち着いた。そこはゲスト同士交流できる共有スペースのようになっていて、私の他に中国人ファミリーがくつろいでいた。

​そういえば、ギリシャには中国人の姿をあまり見なかった。

彼らは本土を出てアメリカ生活が長いらしい。子供の休みにあわせてギリシャ旅行をしているのだと。 旅慣れた感じの奥さんはヨーロッパが大好きで、色んな所へ行っているらしい。ご主人は落ち着いた感じの良い知的な方で、ギリシャの経済危機が実際のところ市民生活にどの程度影響を及ぼしているのか、ディタさんに熱心に聞いていた。

ギリシャも中国と同じく親族間の結びつきが非常に強く、経済危機の中にあって互いに援助しあって生活しているというが、場所によってその影響はまちまちだという。例えば、メテオラのようにほぼ観光収入が占めているような田舎街などは、今のところダイレクトな影響はさほど無いのだとか。

温かい紅茶を飲むと、じきに強烈な眠気が襲ってきた。ディタさんと中国人ファミリーにおやすみの挨拶をすると、部屋に戻った。

すると部屋には、ディタさんがおすすめしてくれていたローカルワインが、美しいガラスの入れ物に並々と入って置いてあった。

ここでもかりんとうをお土産に渡したので、そのお礼のつもりなのだろうか。

普段はアルコールに弱いのであまり飲まないのだが、せっかくだからとグラスに注いで口をつけてみた。

すると、美味しい!!

葡萄の果実の味がしっかりしていて、コクのある味わい。けれど、ちっともしつこくなくついつい飲んでしまう。

疲れていたからか、気分がハイだからなのか、あとはもう寝るあけだという安心感からか、とにかくこの葡萄酒が絶品に感じて、普段は一杯飲むか飲まないかの私が、なんと大き目のグラスに5杯も飲んでしまった。 翌朝は5時台の列車に乗らなければならない。アテネに戻って日本から来た母と妹を迎えるのだ。寝過ごしては大変だ、と思いながら何故かいつまでもメテオラの葡萄酒を飲む手が止まらなかった。

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