ヒマラヤの麓町ジョムソン、まさかの陸路脱出劇 1 ~フライトキャンセル~

September 5, 2015

 まず最初に、この一連の脱出劇はプライベートな旅ではなくお客さんを連れての仕事中に繰り広げられたということを覚えておいてもらいたい。会社の責任とお金を払って参加されているお客さん達の不安を一身に背負った危機的状態がいかに背筋の凍るものか、分かっていただけるだろう。

空路20分のところ、陸路12時間!過酷極まりない移動はいかにして行われたのか。実際の添乗中にこなした奇跡の脱出劇一部始終。

 

■フライトキャンセル

 

その日はまだ陽も昇らぬ早朝から、石造りのホテルの窓を揺らす突風で目が覚めた。

窓の外を覗くと満点の星空の下、薄ぼんやりと浮かぶヒマラヤの山々の聳える姿がゾクッとするほど美しい。

Himalaya by night | Flickr - Photo Sharing!

 

世界の8000m峰の全てが集まるヒマラヤ山脈。その雄大な山々の麓に位置する村ジョムソン。

今回の仕事は、ここに滞在してヒマラヤの大自然を感じ付近に点在する小さな村々を訪れるトレッキングツアーの添乗であった。

 

前回参照↓

神々の棲家、ヒマラヤの懐で過ごす数日間

 

 

 

 

 

 

ジョムソンはその昔チベットとインドを結ぶ交易路であったジョムソン街道上にある村で、首都カトマンズのあるカトマンズ盆地より西、ネパール中部高所地帯に位置する。

 

 Jomsom main street, Nepal | Flickr - Photo Sharing!

 

ダウラギリ、アンナプルナという名だたる8000m峰に囲まれ、その谷間にあるという立地からヒマラヤの山々をぬってやってくる風が突風となって吹き込んでくる。

そして、険しい山々に囲まれた滑走路一本のジョムソン空港は世界で最も危険な空港として知られている。

 

 

トレッキング滞在を終えのんびりと朝食を済ませると、今日はもうジョムソンを発つフライトが待っている・・・はずだった。

 

しかし、この地域特有の突風が朝から吹き荒れ本日のフライトは全てキャンセルという。

 

まあ仕方がない。

 

ジョムソン滞在を含む場合はフライトキャンセルの危険があるため、そのつもりで予備日を設けてあるのだ。お客さんたちもそれは十分承知のこと。このようなツアーに参加する方々は皆、旅の玄人ばかり。この程度のハプニングには慣れっこである。

 

風はあれど天気は良いのでホテル周辺のハイキングをしたりして過ごすことになった。

 

ジョムソンマウンテンリゾートは村の中心部から小高い場所にある。すでに標高は2700mを越え、空気が地上よりも薄いのを感じる。

ホテルの目の前にはダイナミックなヒマラヤの自然を望む。

 

 

夜には周りに人工的な光が一切無いため、まるで天の川のごとく煌めく満点の星空。

流れ星は数秒に一回の割合で見ることができる。

 

Starshot | Flickr - Photo Sharing!

 

石造りのホテルは広々としていて、シャワーのお湯が出る時間が決まっているという点はあるものの味のある快適なホテルである。

 

 

ここには通常の電波は届かない。添乗員は通信衛星と直接通信する衛星電話を持って緊急事態に備えるのだ。したがって、FBやIGの更新、LINEのやり取りから解放され、完全なデジタルデトックスができる。

 

フライトキャンセルは困るけれど、こんな素晴らしい自然美と、敢えて何もないという贅沢を味わえるのは、それはそれで良いかもしれない。

 

 

こうして延泊一日目が過ぎていった。

 

 

 

 

■延泊2日目

 

翌朝、一足早く目覚めた私とネパール人の現地ガイドは麓の空港に様子を見に行くことにした。

外に出ると冷めたい風がニット帽を吹き飛ばした。

 

もしかしたら・・・案の定、今日も強風のためフライトは全便キャンセルとのことだった。

 

2日目は、ホテルでのんびり過ごしたり全員でゲームをしてみたり、この辺りになるとメンバー全員がかなり打ち解けてきているので、まだこういったハプニングも楽しめる心の余裕がある。

 

 

夜は電気に限りがあるためホテルの照明は最小限に抑えられるが、全面ガラス張りのエントランスや窓からは青白く光るヒマラヤの山々、そして月明かりと星空が放つ夜独特の光が差し込みホテル内は幻想的な空間へと変わる。

 

シンとした仄暗いロビーの一角で明かりを灯し、ホテルのオーナーとスタッフ、現地ガイドとお客さんと共にこの地域特産の林檎の蒸留酒と温かい紅茶を飲みながら語らう。

 

滞在しているのは私たちと、もう一組の同じ日本から来ていた某社のツアー一組だけである。静かなホテル内には、壁一枚隔てた自然界の静けさがそっくりそのままあるようだ。

 

Moon and the Milky Way as seen from Himalayas | Flickr - Photo Sharing!

 

しかし、そろそろフライトが出てくれないと困る。依然として吹き荒れる突風の音を聞きながら、夜遅く眠りについた。

 

 

 

■延泊3日目

 

そして迎えた延泊三3日目。

 

この日に戻れなければ後の日程に影響が及んでくる。朝早く空港とやりとりをしていたオーナーから、今日はフライトが出るかもしれないという知らせを聞き、ひとまず全員で麓の空港で待機することにした。

 

簡素な建物が一つあるだけの小さな空港は、フライトを待つ人々でごった返していた。

 

 

一本しかない滑走路には旗のような風速計が立っている。それが風ではためくごとに人々の間から溜息が漏れる。

 

そのうち空港職員から飛行機がやってくるとの知らせがあり、一同に歓声が沸き上がった。固唾をのんで見守っていると鈍いエンジン音とともに小型プロペラ機が青い空に姿を現す。待ちに待った飛行機である。空港はえらい騒ぎとなった。

 

 

しかし・・・喜びに浸ったのは束の間のことだった。

 

なんと、やはり強風のためフライトは今しがた飛んできたジョムソン入りの飛行機のみで、ポカラ行を出すのはもう難しいとのことなのだ。

 

人々の間からは落胆の声が漏れ、それは私たちも例外ではなかった。衛星電話を使い、会社の緊急連絡先へも状況連絡を入れる。

 

会社としても延泊4日というのは今まで例が無く、予備日を使い切った今本格的に方法を考えなければならない事実に直面していた。というのも、既に3日間をロスしたためその後の日程には既に影響が出ている上、明日戻れなければ日本への帰国便にも影響が出てしまうからだ。

 

夕食を終えお客さんたちが寝静まった後、その不安を掻き消すかのようにガイドと私はオーナーの部屋でホテルスタッフや某社のガイドと共に話し込んでいた。

 

オーナーによると、明日もおそらく今日と同じような状況。

 

ポカラ行のフライトが出るかどうかは、五分五分の確率。そして、出るとすれば午前中の1~2便のみであろうということだ。更に、飛行機は20人乗れるかどうかの小型プロペラ機。それに対して既にキャパシティーを越える数の人々が待機しているため順番待ちが発生する。団体である私たちには正直厳しい状況である。

 

 

 

選択肢は二つ。

 

①そのまま延泊を続ける。

②陸路でポカラまで戻る。

である。

 

①の場合はフライトがいつ出るか不確実である以上、最悪帰国便に間に合わなくなる可能性がある。

②の場合は、ポカラまでヒマラヤの山岳地帯を越え単純計算で10時間以上、小さなジープでの移動になるためかなり過酷な移動になる。

 

 

 

■運命の4日目

 

 

そして迎えた運命の4日目。

 

 

朝早く起きたガイドと私は空港の様子を見に麓に下ることにした。

外に出ると不穏な風が土埃を上げている。

 

オーナー曰く、やはり確率は五分五分とのこと。そして、お客さんたちの意見は、全員一致で選択肢②をとりたいということであった。さすが玄人たちである。今後の予定に備え、朝食は十分多めに摂ってもらっておく。そして、お客さんたちはパッキングをしてホテルのロビーで待機。結果が分かった時点でオーナーに車で麓まで乗せてきてもらう。

 

 

空港はすごい騒ぎであった。

 

 

前日と同じように鈍い音がしたと思うと小さなプロペラ機が滑走路めがけて降下してきた。しかし、ここからが勝負である。しばらくの後アナウンスがあったかと思うと、空港のフロアは大変な騒ぎとなった。どうやら2便のみ飛行機が出るらしい。何しろ40人の枠に3倍近い人々が殺到するのだ。

 

案の定、私達団体客は飛行機に乗りきれないため半分に分かれるか、全員乗らないかの選択肢を迫られた。

 

こうして、寸でのところで私たちは、ポカラへの最後のフライトを逃したのである。

 

さて、悔しがっている暇は無い。

 

ここまでは想定の範囲内。ここから先は時間との勝負になる。既に時間は午前10時を過ぎるところ。ポカラまでの道のりは少なくとも10時間。

 

高台のホテルからやってきたお客さん達を迎え、予め押さえておいた四駆と荷物持ちのシェルパを雇った。その間に、当座の食糧としてビスケット、そしてリンゴも購入しておく。昼食はどこでとれるか分からないからだ。

 

ガタピシいう四駆に私、ガイド、シェルパ、ドライバー、お客さん6人の計10人が乗り込み風の谷ジョムソンを後にした。

 

さて、ここから先は前代未聞、現地ガイドも未経験、会社としても初めての試みであった陸路脱出劇が始まるのである。

 

 

次回からは、ポカラに到着するまでの過酷な道中を記したい。

 

 

 

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